for what(広報おびひろ令和6年7月号掲載)
皆さんは「三万六千五百朝」という言葉を知っていますか。朝(ちょう)というのは朝(あさ)という字です。今年の帯広南商業高等学校の入学式の祝辞で、生徒の皆さんに贈った言葉なのですが、版画家の棟方志功が「一年は365日、百歳まで生きたとしても、3万6500回しか朝を体験できない、ひと朝、一日だって無駄にしない」と決意した時の言葉だそうです。私は今68歳ですが、人生の3分の2の朝が過ぎたことになり、一日一日、時間を大切にしなければならないと感じています。
かつての日本は、豊かになるために長時間労働をいとわず、経済的な価値をつくることが重視されてきました。私も若い頃は、働けば働くほど経済的に豊かになり、その先に家族や自分の幸せがあるものと信じ、朝から夜遅くまで働き、自分の時間の大半を仕事のために使っていたように思います。
近年はワークライフバランスという言葉が普通に使われるようになりましたが、「仕事」と「仕事以外の生活」に使う時間のバランスを考えるようになり、自分自身を真ん中に置いた時間の使い方に関心が高まっているように思います。
現在、インターネットやAI、ロボット化などの技術革新により、われわれの生活は格段に便利で効率的になりました。昔に比べると、自分自身のために使える時間が、一見増えているようにも感じますが本当にそうなのでしょうか。インターネットやSNSによって膨大な情報にアクセスできるようになったことで、気が付けば多くの時間をこうした情報の閲覧に費やしたり、人目を引くキャッチコピ ーや過去に閲覧した情報を基にAIがお勧めするモノやサービスを購入したりするなど、時間だけでなくお金まで消費していたということも少なくないかもしれません。
多くの情報があふれる時代だからこそ、私たちは日々、自らの意思で必要な情報の取捨選択を行い、限られた貴重な時間を大切にしなければなりません。今の時間の使い方は本当に有益なものなのか、自分自身の幸せにつながっているのか、時間の使い方の「for what」すなわち、「どういう目的、何のために」について考えてみることがますます大切になっているような気がしています。
7月2日は一年の折り返しの日です。数えると、今年もあと182回の朝しかありません。時にはスマホやパソコンから離れて、静かな環境に身を置いて時間の使い方について考えてみるのもいいかもしれません。
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